HIVであることを周りに知られたくないのですが、何に気をつけたらいいですか?
HIV感染については、そもそも公表を強要されるものではありません。本人の了解なしに第3者が勝手に公表することはできません。しかし「職場に言わなければならないのではないか」「家族にいわなければならないのではないか」と誤解し、本当は言いたくないのに自ら公表してしまった、ということもあります。特に感染がわかって間もないときは動揺して衝動的にいろいろな人に言ってしまう傾向に有るようです。まずは自分が不用意に言ってしまわないように気をつける必要があります。
書類は厳重に管理しましょう
身体障害者手帳や自立支援医療受給者証には、病名とともに名前、住所、顔写真などの個人情報が掲載されています。自分の荷物に無造作に入れていると、落としたり、また荷物を置き忘れたり、どんなきっかけでそれが他の人の目に触れられるかはわかりません。
また病名が記載されている書類も同じです。これらを携帯するときは、いつも以上に注意してください。自分の机に役所から届いた書類を置いたままにして、家族や友人に見られてしまった、ということもありますので、家でも厳重に保管してください。
医療費のお知らせにも注意しましょう
家族の健康保険の扶養に入っている人は、保険者から通知される「医療費のお知らせ」に注意が必要です。国民健康保険は年に4回程度、協会けんぽは年に1回、その健康保険証を使った人すべての人の、診療点数(治療額)、医療機関が掲載されたものが発行され手元に届きます。病気や受診について家族に伝えていない場合は、そのお知らせをきっかけに病気のことが知られる可能性もあります。
保険者によっては不掲載が可能な場合もありますので、該当する場合は、保険者、もしくは病院のソーシャルワーカーに相談し対応を検討してください。
出典:全国健康保険協会 協会けんぽホームページ
制度には郵送でも申請可能です
制度を申請すると職場や家族に知られるのではないかと心配するかもしれません。まずHIVに関する制度(身体障害者手帳や自立支援医療)は出向かず郵送でも申請可能ですので、役所へ行くことに抵抗があれば郵送提出を利用してください。HIVなど病名と個人情報が掲載されている書類を送るときは、担当者あてに書留を利用するとさらに安心です。
役所とのやり取りで気をつけること
役所から自宅に郵送される書類は「福祉」「障害」「医療」などの部署名が表に記載された封筒が使用されます。同居する家族などがいて家に郵送してほしくない場合は、窓口でもらうようにもできます。
役所でのやり取りの際、(HIVなど)内容が誰かに聞かれているのではないかと心配があれば、事前に担当者に「プライバシーに配慮したスペースを用意してほしい」と相談することもできるでしょう。
免疫機能障害(HIV、エイズ)は、プライバシーに十分留意して事務対応するよう厚労省から全国の市区町村役所に通知されています。制度申請で不安なことがあれば、役所もしくは病院のソーシャルワーカーに気軽にご相談ください。
ちょっとした風邪、眼科や耳鼻科などHIV以外は今までのかかりつけで診てもらってもいいのでしょうか?
HIVの治療が順調でウイルスコントロールも問題ない場合は、それ以外の治療に関して、ご自身のかかりつけ病院を受診していただいいて問題ありません。判断に迷われる場合は、主治医や担当看護師にご相談ください。
他の病院にかかられる際、HIVの薬との飲み合わせに注意が必要なこともありますので、HIVの治療を行っていることを申し出られることをおすすめします。先方の病院あてに主治医から診療情報提供書(病気や服用中の薬について説明した手紙)をお出しすることもできます。
ご不明な点やご心配なことがございましたら、遠慮なく主治医やその他医療スタッフににご相談ください。
病気が原因で働けなくなったら、どうしたらいいのでしょうか?
「治療のため、長期間仕事を休まなければならない」、「体調不良が続いて、仕事を辞めてしまった」などなど、病気が原因で働けなくなった場合に無収入になってしまうと生活できませんし、治療に専念することもできません。
このような場合に活用できる保障制度をご紹介します。いずれの制度も相談窓口で病名を聞かれたり、診断書に病名の記載が求められたりすることがあります。このような場合にどのように対応するか、ご心配な場合は医療ソーシャルワーカーへご相談ください。
経済的基盤を支える制度について
傷病手当金(健康保険)
会社などに勤めている人が、業務外の事由による病気やけがによる休業期間中の生活を保障するために設けられた制度です。原則社会保険に加入している方が対象です。
※新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、国民健康保険に加入している人も対象となりました。ただし、実施の有無は市町村により異なります。
- 同じ疾患名で連続して3日以上仕事を休んだ後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して、最長1年6カ月を限度に、給与の約2/3が支給されます。
- 健康保険に加入している期間が1年以上あり、かつ退職時にも手当を受けていれば、退職後も引き続き支給されます。
- 傷病手当金申請には職場への診断書提出が必要です。職場へ病名を伝えていない方は抵抗があるかもしれません。その際は、一度医療スタッフと何か良い方法がないか相談してみても良いかもしれません。
※協会けんぽの場合は全国健康保険協会都道府県支部へ、共済・健康保険組合の場合は保険証に記載されている保険者へお問い合わせください。
全国健康保険協会 協会けんぽホームページ
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/
障害年金
公的年金の加入者が病気やけがによって心身に障害があるため、働けないか、働くことにかなりの制限を受ける場合に受けられる所得の保証制度で、障害基礎年金と障害厚生年金があります。HIV陽性者も「ヒト免疫不全ウイルス感染症」で等級に該当すれば受給が可能です。※身体障害者手帳の等級とは別になります。
- 初診日から1年6ヶ月経過した日において、障害等級表で定めた障害の程度にあり、年金保険料についての受給要件を満たしている場合に受給できます。
- HIV/AIDSの場合、初診日から1年6ヶ月経過していると治療が始まって障害年金の等級に該当しないことが多いです。
◆障害基礎年金額…1級975,125円(年額)、2級780,100円(年額)
※詳細は年金事務所、市区町村の国民年金の窓口へご確認ください。
日本年金機構ホームページ
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
失業等給付(雇用保険)
何らかの理由で会社を退職した場合、雇用保険に加入し、条件を満たしていれば一定期間(休職期間中)失業等給付金の基本手当が受給できます。離職理由や離職者の年齢等で、受給額や受けられる期間が異なります。
病気やけがによって求職活動ができなくなった場合、基本手当は受け取ることができませんが、他の手当が受けられる場合もあります。
※詳細は最寄りの公共職業安定所(ハローワーク)へご確認ください。
生活福祉資金貸付制度
低所得世帯、障害者世帯、高齢者世帯で、支援を受けることにより、世帯の生活の安定と経済的自立を図ることを目的として、低金利で貸付を受けることができます。貸付は利用目的が細かく決まっており、審査や条件を満たすことが必要です。
※詳細はお住いの社会福祉協議会へご確認ください。
生活保護
生活費の手立てがなく、生活に困窮する国民(在留資格のある外国人含む)に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、生活の自立を促すことを目的とする制度です。
病気などで働くことができない、生活費に充てる資産(年金や預貯金等)がない、他に利用できる制度がない、援助できる親族がいない等の条件がありますが、それぞれの状況に応じて受給が決定されます。
※詳細はお住いの市町村役所生活保護課へご確認ください。
今の仕事を続けても大丈夫ですか?
HIVのみを理由に仕事を辞める必要はありませんので、可能な限り今まで通り仕事を続けてください。HIVの治療は進歩しており、治療をしながら今まで通りの仕事をしている方が多くいらっしゃいます。仕事を続けられるよう、定期受診、服薬を継続して健康を維持しましょう。
参考資料
- 「職場とHIV/エイズ」地域におけるHIV陽性者等支援のためのウェブサイトより
- https://www.chiiki-shien.jp/image/pdf/HIV_sien_guidebook_2015.pdf
職場に病名を伝えるべきでしょうか?
職場に伝えなければならない義務はありません。会社の保険証を使うと職場に病気が知られてしまうのではと心配する方もいますが、個人情報保護により、本人の承諾なしに病院受診状況が掲載されている診療報酬明細書(レセプト)が職場に公表されることはありません。
身体障害者手帳を取得した場合も同様で職場に報告する必要はありませんし、役所から職場に情報が伝えられることもありません。しかし最近は、障害者雇用促進法で企業には障害者を一定数雇用するよう定められたこともあり、身体障害者手帳の申告を強く促す場合もあるようです。
平成17年に厚生労働省が策定した「プライバシーに配慮した障害者の 把握・確認ガイドラインの概要」には、職場における、労働者の身体障害者手帳所持の把握確認方法について「労働者本人の意志に反して、障害者である旨の申告または手帳の取得を強要してはならない」と明記されていることから、職場への手帳所持の申告は、あくまで本人の自由意志に基づくものとされています。申告したくなければしなくても全く問題ありません。
一方、体調や通院に配慮を必要とする場合は、病名を伝えておくことで配慮が受けられるかもしませんし、安心して仕事につくことができるという人もいます。税制上の優遇措置として障害者控除も職場を通じてしやすくなるでしょう。さらに、企業側にも障害者手帳取得者を雇用していることのメリットは大いにあるでしょう。
いずれにしても、大切なのは、HIVが未だに間違った情報によって誤解され差別偏見を受けやすい疾患であること、病名を職場に伝える際は、いつ、誰に、どのような内容を伝えるのか、伝え方も慎重に検討する必要があるということです。かかりつけのHIV拠点病院では主治医などの医療スタッフからアドバイスを受けられますので、一人で悩まずぜひ相談してみてください。
参考資料
- 「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」
厚生労働省労働基準局長・厚生労働省職業安定局長通知平成7年2月20日 - https://api-net.jfap.or.jp/library/data/law/doc_02_29.htm
仕事を探したいけど、支援は受けられますか?
公共職業安定所(ハローワーク)は、仕事を探すほか、履歴書の記載の仕方や面接の受け方などを相談できます。もし障害者雇用を利用して就職活動を行う場合は、自分の病気の情報が、その企業の誰にどんな情報として伝えられるのか確認しておくとよいでしょう。
知らない人が(知らせたくない人に)勝手に自分のことを知られるのは嫌なものです。障害者雇用枠を設けている企業の中には、「HIV陽性者を雇用するために、どのような配慮が必要か知りたい」という企業もあるかもしれません。そのような企業に対しHIVの専門家が正しい情報について研修することもできます。ハローワークを通じてまずはご相談いただくか、直接医療ソーシャルワーカーへご相談ください。
就学中に陽性が判明した場合、学校にいうべきですか?いろいろな影響がありそうですが。
基本的には学校に病名を告知する必要はありません。学生生活の中でも、例えば、学校の健康診断やアルバイト、就職活動などの、その場面ごとでHIV陽性者であることを伝えるべきか悩むことが出てくるかもしれません。いずれの場合もHIVであると公表することは強制されるものでは決してありません。しかし人それぞれで状況が異なりますので、判断に迷うときは、一人で悩まず、かかりつけのHIV拠点病院またはHIV陽性者支援団体の専門スタッフに相談することをおすすめします。
(参考)
ぷれいす東京 https://ptokyo.org/
介護が必要になったらどうしたらいいでしょうか?
HIV感染症に関連する疾患、関連しない疾患、要因は様々ですが、介護を必要とする陽性者も徐々に増えてきました。このようなときには、以下の公的制度でサービスを利用することができます。
障害者総合支援法
- 身体障害者手帳が交付されており、介護保険の適用とならない人が対象です。
- 市区町村に申請し、どれくらい支援が必要か認定(障害支援区分認定)を受けます。その後、相談支援事業所に依頼し、どんなサービスをどの程度、どのサービスをどれだけ使いたいか相談し、介護計画を作成してもらい、その計画に沿ってサービスを利用することができます。
- 訪問介護(ヘルパー)や就労に向けた支援、施設入所などのサービスを利用することができます。サービスの利用料金は所得によって決まります。
※詳細はお住いの市町村役所障害福祉課へご確認ください。
介護保険
- 65歳以上で原因を問わず、日常的に支援や介護が必要な状態にあるか、40~64歳で介護保険法に定められた16疾患が原因で日常生活を送るために介護や支援が必要な方が対象です。
- 市区町村に申請し、どれくらい介護が必要か認定(要介護認定)を受けた後、ケアマネジャー(介護支援専門員)と呼ばれる介護サービスを手配・調整する人に、どのサービスをどれだけ使いたいか相談し、介護計画を作成してもらい、その計画に沿ってサービスを利用することができます。
- 訪問介護(ヘルパー)や訪問看護、通所介護(デイサービス)や通所リハビリテーション(デイケア)などを利用することができます。サービスの利用料金は所得によって、1~3割を負担することになります。
※詳細はお住いの市町村役所介護保険課、地域包括支援センターへご確認ください。
介護・支援してくれる人に
HIVのことは伝えた方がいいのでしょうか?
介護が必要な状態になると、訪問看護や訪問介護(ヘルパー)などの支援者は日常生活や健康を支えてくれる必要不可欠な存在になります。訪問看護には健康管理や薬の管理を、訪問介護には掃除・買い物などの生活支援の他、入浴や排泄などの身体介護をしてもらうこともあるかもしれません。HIVのことを伝えることで、薬の管理や食事への配慮など適切な支援が受けられますし、あなたも安心して看護・介護を受けられるようになります。
しかし残念ながら、間違った知識による不安や偏見から介護や看護をしたくないという事業所が存在するのも事実です。
当院では、HIV陽性者の患者さんを支援する事業所に対して出前研修を行い、HIVを正しく理解していただくとともに、個人情報の取り扱いについて注意喚起をしています。また、事業所に対して情報提供を行う場合は、患者さんに対し、どこにどのような情報を提供するのか説明し、了承を得るようにしています。
一度介護が必要になると、支援者との付き合いは長くなります。支援者が安心して支援でき、自分自身も安心して支援が受けられる良好な関係を作るために、HIVのことを伝えることをお勧めします。
これからの生活が心配です。…
10年後、20年後、30年後…「老後」の自分をイメージしたことはありますか?
いつの間にか高齢者になっているかもしれません。いろいろなことを元気な今のうちに備えていると安心です。
いざという時に頼れる人がいないけど…
もしも、一人暮らしで、急病によって自宅に倒れていた場合、誰がその異変に気づくでしょう。駆け付けてくれる人はいますか?意識不明で救急車で運ばれた時、連絡して欲しい人は誰ですか。もしそれがはっきりしていなければ、自分の知らない疎遠の親族に連絡されることがあるかもしれません。想像することも辛いかもしれませんが、実際には少なからず現実として起こっており、自分がこうしたい、こうしたくないというのをはっきり示して置くことは非常に大切なことです。
最近めっきり外に行かなくなった・・・一週間誰とも口を聞いていない・・・。もし同じようなことを感じるお知り合いがいれば、安否確認ネットワークを作り、毎日必ず連絡を取り合うという取り決めができるかもしれません。お金はかかりますが、民間の安否確認サービスを利用する方法もあります。いまなら自分にあったやり方を考え、見つけることができるでしょう。
「介護を受けたいけどどうしたらいいか?」など介護については地域包括支援センター(福岡市の場合は「いきいきセンター」)が相談窓口です。介護支援専門員、保健師、社会福祉士がそれぞれの専門性を生かしアドバイスをくれますし、必要に応じて更に適した相談窓口へ橋渡ししてくれる場合もあります。いざというときは専門相談が頼りになります。
「終活」を考えてみてはいかがでしょうか?
自分らしい最期を迎えるための事前準備が「終活」です。例えば、「HIVが分かるような書類(身体障害者手帳や自立支援医療受給者証など)や薬を家族が発見しないようにしたい」「財産は、大切なパートナーに渡したい」、あるいは自分のお葬式やお墓をどうするか、大切なペットは誰に託すのか、SNSや大切な情報が入ったPCはどうするのか…など自分が主体となって決め、亡くなった後にあなたの意向に沿って実行されるよう、これらのことをきちんと決めて書き残すエンディングノートを作成することをおすすめします。
あなた自身のため、また残されたあなたの周りの人のため、終活を一度考えてみてはいかがでしょうか。
(参考)
特定非営利法人パープル・ハンズ http://www.purple-hands.net/