社会資源活用のポイント

HIVに関する社会福祉制度

抗HIV薬の開発により治療効果はめざましく進歩し、予後も大幅に改善され多くのHIV陽性者は治療をしながら社会復帰されています。しかし抗HIV薬は半永久的に毎日服用が必要で、1日分が約7000円です。そのため陽性者は複数の社会福祉制度(医療費を助成する制度)を組み合わせて利用し自己負担を軽減することができます。

陽性者が安心して制度を利用し治療を継続できるよう、申請自体に支援が必要な場合があります。なぜならば、HIVは未だ社会における差別偏見意識が根強いことから、制度の利用をきっかけに病名が漏洩するのではないかと不安になり、申請自体躊躇したり、やめてしまう人もいるからです。

制度利用は抗HIV療法開始がきっかけとなる事が多く、陽性者の心理状況としても不安が強い時期でもあります。制度の利用を支援する際は、陽性者の心情を丁寧に受けとめながら、本人が安心して制度の利用ができるようサポートする必要があります。

身体障害者手帳(免疫機能障害)

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症、後天性免疫不全症候群(エイズ)の場合、申請により身体障害者手帳(免疫機能障害)の交付を受けることができます。身体障害者福祉法に基づく障害等級基準によって審査決定がなされるためその基準を理解しておくことで、治療開始の時期など方針決定に必要な条件がわかります。

対象

HIV陽性で、身体障害者障害程度等基準表に該当

申請

4週間以上を開けた2回の採血検査で結果が等級基準に該当すれば申請ができます。エイズの既往が有り認定基準表に該当する状態であれば、4週間を待たずに申請が可能となる場合があります。身体障害者指定医と相談し、抗HIV療法が始まる前までに申請の準備を進めるとよいでしょう。

窓口

市区町村の役所障害福祉担当課

支援のポイント支援のポイント

  • 自立支援医療と同時に申請することが可能です。但し、自治体によって異なりますので注意が必要です。
  • 再認定は原則不要(ただし医師の判断で診断書に記載されます)とされているため、等級変更申請をしない限り最初に受けた等級を生涯持ち続けることになります。
  • 役所へ申請書類を提出する際は郵送でも可能です。
  • 身体障害者手帳を実際手にした陽性者の中には「障害者という烙印をおされた」と大きな衝撃を受ける人もいます。HIVの告知を受けた時以上にショックだったと言う人もいます。事務的な申請手続きですが、心を揺るがす大きな出来事となる人もいるのです。陽性者の心の動きを理解し、必要であれば臨床心理士等他のスタッフとも情報共有し丁寧に支えていくことも大切です。

参考資料

身体障害者手帳に係る認定基準等について(福岡県)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/520180_60203061_misc.pdf

障害者自立支援医療(免疫機能障害)

抗HIV療法、日和見感染症の治療にかかる医療費を助成する制度です。

対象

身体障害者手帳の免疫機能障害で認定を受けている人。

窓口

市区町役所の障害福祉担当課

支援のポイント支援のポイント

  • 身体障害者手帳と同時申請が可能です。但し自治体によって手帳取得後にしか申請できない場合があるので確認が必要です。
  • 指定自立支援医療機関でしか使えません。原則病院1箇所、薬局1箇所の登録です。
  • 助成されるのは、HIV感染症、エイズに関する抗HIV療法と合併症、日和見感染症に対する診療費のみとなっており、それ以外の治療は助成対象外です。
  • 訪問看護も対象となりますが、事業所が自立支援医療指定を受けている必要がありますので、事業所へ確認が必要です。
  • 年に1回の更新手続きや属性変更にともなう変更申請が必要です。忘れずに自己管理ができるようにこまめな声掛けを行っていきましょう。

受給額

引用:「制度のてびき」新潟大学医歯学総合病院

コラム

手続きは支援者が代行したほうがしたほうがいいのでしょうか

陽性者の中には、「役所に行きたくない、手続きは自分でしたくない」「病院で書類を預かって欲しい」と希望する人がいます。病院、また役所の中にも、病院がすべて代行したほうが何かと問題にならなくていいのでは?HIVだから特別な病気だから、管理してあげたほうがいいのではと、病院がすべて管理しているところもあるようです。

しかしHIVだから特別な対応が必要なのかといえばそうではありません。例えば、家に送ってほしくなければ役所に取りに行く事もできますし、役所に行きたくなければ郵送で書類を提出することも可能です。役所で人目が気になるのであれば「別室を用意してほしい」と個別に対応を相談することも可能です。こうすればじぶんでもできる、という手段を陽性者と一緒に考え、陽性者本人が自分で解決できるよう環境を整えることも、支援者にとって必要な視点です。

病院任せではなく、健康管理と制度の自己管理は車の両輪のようにバランス良く自立し続けられるよう、支援者は側面からサポートしていくことが必要です。

薬害被害患者の医療福祉制度

薬害被害HIV感染患者(薬害被害患者)は、薬害エイズ裁判において、国との和解が成立し、恒久的救済医療が保証されました。薬害被害患者の原状復帰のため患者さんに医療費の自己負担はありません。なお薬害被害患者には血友病薬害被害患者さんだけでなく二次感染、三次感染の患者さんも含まれます。

1. 特定疾病療養(長期高額療養)

  • 血友病、HIV感染症の治療について医療費の自己負担上限額を1万円に軽減するものです。保険者が発行しますので保険証を変更するようなことがあれば一緒に手続きが必要となります。
  • 申請の際は「特定疾病療養受療証申請書」が必要ですが、病名を記載しなければなりません。申請は職場を通してされる場合が多く、病名が職場に知られることになりますので気をつける必要があります。
窓口

各保険者

2. 先天性血液凝固因子障害治療研究事業医療費助成

  • 血友病、HIV感染症の治療について医療費の自己負担分を全額助成する制度です。助成は薬害被害患者さんの治療は原則としてすべて対象となっており入院中の食事療養費も含みます。
  • 保険証の変更や住所変更、年に1回の更新手続きが必要です。
  • 登録した医療機関でしか使えません。他の病院で使う場合は登録手続きが必要となります。また医療機関と都道府県の委託契約の締結が必要です。
  • 介護保険の医療系サービス(通所リハ、訪問看護、居宅療養管理指導等)で利用することができ、サービスの自己負担が助成されます。事業所と都道府県の委託契約の締結が必要です。
  • 治療用装具も対象となります。
窓口

各市町村保健予防課、保健福祉環境事務所

3. 調査研究事業

  • 薬害被害患者のうち、エイズを発症していない人に対して支給される手当です。
  • 年に一度報告書を提出することになっていますが、やむを得ない理由で提出が難しい場合は、現況届のみ提出することで手当を受給することが可能です。
  • CD4の数値によって手当の金額は変わり、一度でも200以下になると、申請をすれば金額が変更されます。その後200以上になった場合でも、手当の額はもとに戻りません。
    ※手当の額(令和2年4月)
    ・CD4が200以下の場合・・・月額53,000円
    ・CD4が200以上の場合・・・月額37,000円
窓口

医薬品医療機器総合機構(PMDA)TEL 03-3506-9415

4. 健康管理支援事業/発症者健康管理手当

  • 薬害被害者のうち、エイズの既往がある人に支給される手当です。
  • 現在エイズが寛解している場合も支給は継続されます。毎年健康管理手当と現況届を提出することになっていますが、現況届だけでも問題ありません。
  • 月額 150,000円
窓口

医薬品医療機器総合機構(PMDA)TEL 03-3506-9415

支援のポイント支援のポイント

  • 薬害被害患者は全国でおよそ700名と言われています。(令和元年現在)
  • 対象となる患者さんは多くないことに加え、制度の細部は文書化されていないものも多いことから、医療機関や行政機関でも制度の運用について認識が異なり、本来受けられる制度が受けられないままという事が起きています。
  • 薬害被害患者の医療費は自己負担が生じないということを認識して置くことが必要です。
  • 薬害被害者の制度の運用、個別支援については、エイズブロック拠点病院、または厚生労働省エイズ対策推進室(03-5253-1111 内線: 2358)が対応することとなっておりますので、直接相談してください。

介護と療養

HIV陽性患者は治療の進歩で長期存命が望めるようになり社会復帰される方も7割を超えているといわれています。患者は増える一方、後遺症や合併症により介護や障害福祉サービスの利用を必要としている人も徐々に増えています。

しかしながら、社会におけるHIVへの理解はいまだに低く、「HIV陽性者の受け入れをしたことがない」「感染するのが怖い」「職員がやめると言い出した」「風評被害が怖い」など様々な理由で、利用したくてもできないということが起こっています。

HIVは標準的な感染対策で感染を予防できるウイルスです。特別な感染対策は不要で、HIV陽性者を受け入れるためにあらたな設備投資や特別な対策を講じる必要も準備もいりません。唯一必要なことは病気に対する最新の正しい情報と、差別的対応をしないという意識をすることです。

ブロック拠点病院や患者支援団体など発行しているHIVの啓発冊子や行政機関、エイズ診療拠点病院において定期的に開催されているHIV研修を積極的に活用し最新情報を取得して、陽性者が安心して地域で過ごせるような地域づくりをともに行っていきましょう。

関連資料(介護従事者向けのHIV啓発資材)

社会福祉施設で働く皆さんへ「HIV/AIDSの正しい知識」
https://www.haart-support.jp/pdf/h31_knowledge_hiv_aids.pdf
在宅医療をされる皆さんに知ってほしいこと
https://www.haart-support.jp/pdf/h31_home_medical_care.pdf
エイズ出前研修(九州医療センター)
https://kyushu-hiv.info/professionals/staff-training.html

就労について

HIV陽性者の多くが仕事をしながら治療を続けています。しかし企業側のHIVへの根拠のない恐怖や不安HIVへの根拠のない恐怖や誤解により就労の機会が脅かされたり、奪われるということが現実には起こっています。

「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」は職場における陽性者の権利を守るための指標が示されており、陽性者と企業側それぞれが理解すべき内容となっております。

「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」について

労働省労働基準局長・労働省職業安定局長通知
基発第75号職発第97号 平成7年2月20日
一部改正・基発0430第2号 職発0430第7号 平成22年4月30日
※以下ガイドラインから一部抜粋

HIV検査
  • 職場において労働者に対しHIV検査を行わないこと。
  • 労働者の採用選考を行うにあたって、HIV検査を行わないこと。
HIV感染の秘密の保持
  • 労働者のHIV感染の有無に関する健康情報はその秘密の保持を徹底する事。
雇用管理等
  • HIVに感染しても健康状態が良好である労働者については他の健康な労働者と同様に扱うこと。
  • HIV感染していることそれ自体によって就業禁止に該当することはないこと。
  • HIV感染に感染していることそれ自体は解雇の理由とはならない事。

支援のポイント支援のポイント

  • 「HIVになったら仕事はできない」と陽性者自身も誤解している場合があります。陽性者は約7割以上が仕事をしながら生活されています。HIVだけを理由とした就労の制限ははないと言われています。HIV感染症と判明しても職場へ報告する義務はありません。「職場に報告しなければならないのではないか」と勘違いし、本当は伝えたくないのに言ってしまったという人もいます。
  • 一方で周囲にはHIVを知ってもらって働きたいと言う考えの人もいます。しかし勇気を出してHIVと公表したけれど、うまく伝えることができずにかえって誤解されてしまった、あるいは伝えたくない人にまで伝わってしまった、と本人が意図しない形で公表され働きづらくなったということもあります。HIVを公表することを望んでいる人には、誰に、どのように伝えるのか、伝え方について一緒に考えていく必要があります。
  • 休職などで診断書を職場に提出する際、診断書の病名について悩む陽性者がいます。本人の意思をできる限り尊重しつつ、主治医としっかり検討する場を設けることも、支援者として大切な支援です。
  • 【障害者就労支援について】
    身体障害者手帳を取得している陽性者のなかには、障害者就労支援サービス(就労移行支援、就労継続支援等)を利用する人もいます。身体障害者手帳があれば利用できますが、同時に障害名を公表することになります。免疫機能障害の割合は非常に低く障害者福祉の専門の職員であっても障害について理解されていない場合がありますので、場合によっては差別、偏見によりサービス利用の受け入れ拒否をされる場合があります。正しい知識に基づき支援がなされるよう、啓発の活動を行うことも必要となってきます。さらに、合併する障害のみ公表したいと希望される方もおられます。本人の希望を十分に聞き取りそれが可能かどうか支援者間で検討して行くことは必要でしょう。

関連資料(免疫機能障害の方の就労に関する資料)

「HIVによる免疫機能障害者の雇用促進」障害者雇用マニュアル(高齢障害雇用促進機構)
https://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/manual/om5ru80000007i0m-att/om5ru8000000q7l2.pdf
「職場とAIDS/HIVハンドブック」(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/koho/kansen.files/work_and_hiv_handbook_employee.pdf

転院について

陽性者の中には、合併症や後遺症あるいはHIVに関係しない疾患の出現で、長期的に入院リハビリ、施設に入所しての介護を必要とする人もいます。しかしHIVを理由として転院、入所を拒否されるという問題もあります。陽性者を地域で受け入れる体制(環境)づくりは、決して病院や施設だけでできるものではないため、皆で協力して取り組まなければなりません。HIV拠点病院では特に地域との連携をとり陽性者の療養環境を整備するよう地域の指導的立場としての役割があります。

支援のポイント支援のポイント

①抗HIV薬について

かつては、転院先が特定入院料算定病床(緩和ケア、回復期、地域包括ケア等)へ入院する陽性者に対して、高額な抗HIV薬がネックとなっていました。しかし、抗HIV薬が特定入院料から除外され(除外薬指定)出来高算定が可能となったことで、転院時の問題が軽減されました。

除外対象となる薬
  • 抗ウイルス剤(B型肝炎またはC型肝炎の効能もしくは効果を有するのも及び後天性免疫不全症候群または、HIV感染症の効能もしくは効果を有するものに限る)
  • 血友病の治療にかかる血液凝固因子製剤及び血液凝固因子抗体迂回活性複合体
対象となる入院料

特定入院基本料、療養病棟入院基本料、障害者施設など入院基本料、及び有床診療所、有床診療所療養病床入院基本料、特殊疾患入院医療管理料、回復期リハビリテーション病棟入院料、特殊疾患病棟入院料、緩和ケア病棟入院料及び認知症治療病棟入院料、地域包括ケア病棟入院料、特定一般病棟入院料及び短期滞在手術等基本料、精神科救急入院料、精神科急性期治療病棟入院料及び精神科救急合併症入院料、精神療養病棟入院料及び地域移行機能強化病棟入院料

②個室料金について

HIV陽性の患者が個室に入院した場合、患者本人の希望の有無に関わらず治療上の必要から入室したものとみなしHIV療養環境特別加算を算定することができます。

HIV感染者の入院にかかる特別の療養環境の提供にかかる取り扱いについて
(平成8年4月24日 保険発第64号)厚生省保健局医療課長

HIV療養環境特別加算

個室 300点/1日
二人部屋 150点/1日

③抗HIV薬の準備について

転院時の退院処方は算定できませんので、基本的には転院先で準備していただくことになります。しかし高額で処方される機会も少ない抗HIV薬を採用することはなかなか病院としても難しいため、受け入れを断る理由にしているところでもあります。

HIV感染者の入院にかかる特別の療養環境の提供にかかる取り扱いについて
(平成8年4月24日 保険発第64号)厚生省保健局医療課長

実践例
  • 抗HIV薬を小売してくれる薬局から必要分を購入する。
  • 転院後、拠点病院へ外来受診(対診)し処方してもらう(双方の医事課へ要確認)
  • 患者が入院前に持っていた残薬を持っていく。(病院)によってはできない場合もあるので要確認)

④職員への研修について

初めて陽性者を受け入れる病院(施設や事業所等)において、職員の不安軽減のためには、まずは正しい知識を伝えることが重要です。HIV拠点病院のHIVの専門スタッフから研修をしてもらったり、研修が難しい場合はHIVに対する啓発資材(HIV拠点病院にたくさん用意されている)を利用し個別に相談をうけることも可能です。陽性患者を受け入れた施設に対して、受け入れたあとも支援を継続し連携し続けることが何より重要であると言えます。

⑤HIV暴露事故時の感染予防薬に対する労災保険の取り扱い

医療従事者に針刺し事故が起きた場合、予防薬を服用して感染を予防する(暴露後予防)事ができます。抗HIV薬の服用を一定期間行うこととなりますが、治療費は労災として取り扱われます。

「労災保険におけるHIVの感染症の取扱いに係る留意点について」
平成22年9月9日付基発0909第1号 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長発

予防薬

暴露事故が起きたときは、速やかにHIV拠点病院を受診し予防内服の処方を受けていただくことで暴露による感染を予防することができます。夜間や休日等ですぐに受診できない場合に備え、自施設に1回分のHIV予防薬を準備していただくこともできます。予防薬の入手、設置についてはHIVブロック拠点病院、または各都道府県HIV担当課にご相談ください。

プライバシーについて

支援のポイント支援のポイント

  • 人はだれでも個人情報を第三者に開示されることについて、多少なりとも不安に思うことがあります。それは病気等自分のセンシティブな内容であれば何倍にも不安は高まります。制度や介護サービスなどを申請する際にHIVであることも第三者に伝わります。HIVが未だに差別や偏見をうけやすい病気ということを支援者は十分理解し、陽性者とその家族等が抱える不安に耳を傾けなければなりません。
  • 不安に思うところ、不安の大きさは人それぞれです。まずはその内容を具体化し、どうしたら不安が解決するかを一緒に考えることから始めます。そこを丁寧に対応すれば大きな安心に変わります。第三者に情報を提供する際には、誰に、どのような目的で、どの内容を提供するのか事前に説明し了解をもらうことで、支援される側する側お互いの安心に繋がります。
  • 伝える必要のない人に伝えないということは言うまでもありません。HIVに限らず、大事な個人情報を慎重に扱うということは、専門職として必要最低限のこととして業務にあたっていただくことが大切です。

関連資料

個人情報保護に関する法律
個人情報保護法題51条・個人情報保護法施行令題11条参照
「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」
平成16年12月24日付け医政発第1224002号医政局通知