病気の進行を抑えるために
HIVは一度感染すると体内から排除することはできません。しかし今は、HIVが体内で増えるのを抑える治療薬(抗HIV薬)が多数開発され、病気の進行を抑えることができるようになっています。
抗HIV薬を適切に内服すれば、血液中のHIVが測定できないくらいに抑えることができます。CD4リンパ球が低くなる前に治療を開始し継続すれば、CD4リンパ球がゆっくり回復し、AIDSを発症せずに済みます。あるいはすでにAIDSを発症していても治療によってCD4リンパ球が回復していきます。
また、血液中のHIV量を抑えることで他の人への感染も防ぐことが出来ます。
(U=U; Undetectable=Untransmittable)
HIV感染症の治療の原則は、「定期的に受診」し、「適切な時期」に「適切な方法」で「適切な治療」を開始し、「治療を継続」することです。そうすれば、HIV感染症が原因で死に至る可能性はほとんどありませんし、これまでの生活(仕事や学業など)を中断する必要はありません。
抗HIV薬の種類
HIVは、自分自身を増やすことができる細胞(CD4陽性細胞)に感染して、その感染した細胞に、自身のRNA(遺伝物質)や必要なタンパクを作ってもらい増殖していきます。現在、この増殖する過程をブロックする様々な薬が開発され使われています。
侵入阻害剤(CCR5阻害剤) |
免疫細胞にHIVが侵入するのを抑える薬。 |
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逆転写酵素阻害剤 | HIVのRNAから、DNAが作られるのを阻害する薬。
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インテグラーゼ阻害薬 |
HIVのDNAが、免疫細胞のDNAに組み込まれるのを阻害する薬。 |
プロテアーゼ阻害薬(PI) |
HIVの成熟と免疫細胞から出ていくのを阻害する薬。 |
カプシド阻害剤 |
ヒトの核内でのDNA放出過程や免疫細胞からの遊離過程を阻害する薬。 |
HIVの薬物治療の実際
HIV の増殖を十分に阻止するため、増殖する過程の異なる時点で働くこれら数種の薬を組み合わせて治療を行います(多剤併用療法 ART)。
薬を飲んだり、飲まなかったりすると、薬が効かなくなってしまい(耐性ウイルスの出現)、その薬は使用できなくなってしまいます。そればかりか、交叉耐性といって構造が似ている薬や同じ作用をもつ他の薬にも効かなくなることもあります。
決められた時間に決められた量をきちんと服用していくことが治療効果を高めるために重要です。
出典「HIV治療の手引き」第24版
薬の飲み合わせと副作用
薬を服用すると、小腸で吸収され、血液に乗って体の隅々に運ばれます。小腸で体の中に取り込まれる割合(吸収率と呼んでいるもの)は、薬によっては食事やサプリの影響を受けます。
薬のなかには他の薬と併用することで、薬の血中濃度が影響を受けたり、思わぬ副作用が出現することがあります。最近では栄養補助食品などの成分(グレープフルーツジュース、にんにくエキス、セント・ジョーンズワート/西洋オトギリ草など)の中にも影響を及ぼすものもあることがわかってきていますので、医師に相談して使用しましょう。
体の中に取り込まれた(吸収された)お薬は、肝臓で解毒され、尿や便と一緒に体外に出されます。薬と薬の相互作用は、肝臓での解毒を遅らせる薬の作用によって起こります。薬の血中濃度が上がれば、副作用が出てくることになります。また、逆にお薬の血中濃度が下がることもあります。その場合、効果があがらないばかりか、中途半端に服用している場合と同じように耐性ウイルスが出現し、薬が使用できなくなることもあります。
次のような場合はかかりつけ医療機関におたずねください
- 服用後に吐いた場合
- 海外出張で時差がある場合
- 薬を飲み忘れていたのに気付いた場合
- 市販の薬、ビタミン剤、サプリなどを飲む場合
- 服用開始してから発疹や頭痛などの副作用が出た場合
- 急な出張や災害などで受診が出来ず薬が足りなくなる場合
抗HIV薬に関する詳しい情報はこちらをご覧下さい。
https://www.haart-support.jp/information/