HIV感染症の診断について
- HIV感染症は長期間無症状の時期が続くため、疑って検査をしなければHIV感染症の診断をすることはできません。エイズを発症してからHIVの感染に気がつくいわゆる「いきなりエイズ」の患者さんの多くは、エイズ発症前に他の性感染症などで医療機関を受診していることが少なくありません。病院を受診した無症候期のHIV感染者をエイズ発症前に発見するために、HIVの検査を行うことをお勧めします。
- 性感染症を認める場合、性感染症の既往がある場合又は性感染症が疑われる場合には、HIV抗体検査を保険診療で行うことができます。
- 検査を行う際には患者さんの同意が必要ですが、文書ではなく口頭での同意で問題ありません。
HIV感染症の診断の契機となりうるのは、以下のような場合です。
急性感染期・感染早期
HIVに感染すると、感染後2~6週程度で約3分の2の患者は、急性HIV感染症と呼ばれる一連の症状を呈します。
- 発熱 ... 96%
- リンパ節腫脹 ... 74%
- 咽頭炎、咽頭痛 ... 70%
- 発疹(顔面、体幹部、四肢などに) ... 70%
- 筋肉痛あるいは関節痛 ... 54%
- 下痢 ... 32%
- 頭痛 ... 32%
- 嘔気・嘔吐 ... 27%
- 体重減少 ... 13%
- 口腔カンジダ症 ... 12%
多くは数週以内の経過で自然に軽快します。
無菌性髄膜炎、伝染性単核球症をきたす場合もあります。
インフルエンザなどの急性上気道炎との鑑別が難しいため、症状のみでHIV感染症を疑うのは困難ですが、他の性感染症の合併や既往、以下に示す兆候があれば積極的にHIV感染を疑って検査することをお勧めします。
性感染症の合併・既往歴
HIV感染者は、HIV感染が診断された時点で、すでに複数のSTDの罹患歴を有する場合が多いです。
梅毒、クラミジア尿道炎、淋病、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、肛門周囲膿瘍、ジアルジア症、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、赤痢アメーバ(腸炎、肝膿瘍)など
免疫能の低下が疑われる場合
口腔カンジダ症、繰り返す肺炎、帯状疱疹、好酸球性毛包炎、脂漏性湿疹、乾癬、掻痒性丘疹、慢性のリンパ節腫瘍、慢性の下痢、原因不明の体重減少、不明熱など
その他
男性との性的接触のある男性、性産業の従事者、既知のHIV感染者との性的接触、麻薬・覚醒剤など薬物濫用の既往、HIV有病率の高い国の出身者など
HIV感染症を疑うコツ
「HIV感染症を疑うコツ」については下記をご参照ください。
HIV検査について
検査は通常
1. スクリーニング検査(HIVに感染している可能性があるかないかをふるい分ける検査)
2. 確認検査(スクリーニング検査陽性のとき、その反応がHIVによるものかを確認するための検査)
の順番で行われ、確認検査が陽性となればHIV感染が確定します。
1. HIVスクリーニング検査
HIVスクリーニング検査として、現在日本では第4世代のスクリーニング検査(HIV-1/2 IgG/M+HIV-1p24抗原)が広く用いられています。スクリーニング検査では、約0.3%で偽陽性となります。特に妊娠中の方や、膠原病・血液悪性疾患等を有する患者さんでは偽陽性率は高くなります。
また、感染直後(感染から6〜8週)の場合には、HIVに感染していても抗体検査で陽性とでない時期(ウィンドウピリオド:第4世代検査では最短17日)があります。このため、最近リスク行為があった場合や急性HIV感染症を疑う所見がみられる場合には、間をあけて再検査を行うか、HIV-1 RNA-PCR法による診断確定を行う必要があります(急性HIV感染症の診断目的にはPCR法は保険適応なし)
2. 確認検査
確認検査として HIV-1/2 抗体確認検査法及び HIV-1 NAT 法(RT-PCR法)を実施します。抗体確認検査法として従来型のWB法に代わりIC 法を原理とした HIV-1 と HIV-2抗体を同時に検出可能なHIV-1/2抗体確認検査法が新たに推奨されています。
診療におけるHIV-1/2感染症の診断 ガイドライン2020
(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法)
検査結果説明について
結果説明の場合には、プライバシーに配慮した環境が必要です。
HIV感染症・AIDSと診断した場合
HIVスクリーニング検査で陽性であってもHIV感染症が確定したわけではありませんので、患者さんへの説明の際には十分な注意が必要です。以下のことを十分に説明することが大切です。
- HIV感染症には有効な治療法が存在し、合併症がなければ長期生存も期待できる疾患であること
- 早期に専門家の診察を受けることが望ましいこと(→拠点病院一覧はこちら)
- 日常生活では他者に感染させることはないこと
- 治療費用についても様々な支援制度が存在すること
HIVスクリーニング検査が陰性だった場合
- HIVスクリーニング検査が陰性であっても、ウィンドウピリオドがあるため、完全にHIV感染症を否定できるわけではありません。感染の可能性がある場合には、その機会から2か月以上経過してから再度検査をするよう勧めてください。
- HIV検査が陰性だった場合、パートナーの方も陰性とは限らないということ、パートナーが陽性でもこれまで偶然自分に感染しなかっただけということも十分考えられるということを説明する必要があります。
- HIV検査の機会に、感染予防について正しい知識をもって安全な日常生活を送ってもらえるように説明することが大切です。